認知症
昨今の高齢化社会によって、認知症の方を目にする機会が多いのが現状です。認知症は、様々なタイプに分けられます。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、脳血管性認知症などがありますが、生きている間に確定診断をおこなう事が困難なケースも多数あり、根治できる治療法がないこともあります。早期の発見であれば内服治療で進行を遅らせることも期待できる為、認知症は早い段階で各種鑑別をおこなう事の出来る認知症専門医療機関を受診することが重要です。単なる「もの忘れ」で見過ごしがちの認知症は、なかなか診察の機会がなく、短時間の診察だけでは正確な診断ができないこともあります。頭部CTやMRIなどの画像診断や、SPECT、心筋シンチグラムなどの特殊検査、心理検査や脳機能検査などを組み合わせて総合的に診断をおこなう必要があり、認知症疾患センターなどから受診する事をおすすめします。専門医療機関では認知症デイケアや訪問看護なども同時に検討することが可能で、必要な介護保険申請手続、施設申込などもワンストップで連携可能となる場合が多いです。
認知症とは
初期症状としては、もの忘れ症状があらわれます。最近起きた出来事を思い出せないなどの場合は、認知症の可能性が考えられます。「もの忘れ」はよくある事ですが、認知症のもの忘れ状況は通常のものとは異なります。物を失くしてそれを探す場合、通常の場合は「物をどこに置いたかを忘れ」てしまいますが、認知症の場合は「物を失くしたこと自体を忘れ」てしまいます。ついさっき起きた事や最近の出来事から記憶保持が困難となり思い出せなくなりますが、次第に、言葉の意味が分からなくなる、人や場所を区別し認識する事ができなくなる、道具の名前や使い方を忘れる、状況に応じた行動ができなくなるなどの症状があらわれます。認知症の種類によっても症状の出方が異なり、レビー小体型認知症では記憶は保持されているものの小動物幻視など視覚関連の異常が認められます。血管性認知症では前頭葉の病変があると性格が大きく変わるなどの状態が起こりえます。
認知症の原因と発症頻度
認知症疾患とされるアルツハイマー病やレビー小体型認知症などが原因で起こる場合と、脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患や脳炎、脳腫瘍、脳外傷など脳のダメージによって起こる場合があります。アルツハイマー病が原因の発症頻度は約50~60%、血管性疾患が原因のものは約20~30%、レビー小体型認知症が約10~20%、それ以外は10%とされます。認知症の主体は、加齢に伴って脳内のゴミが蓄積して機能低下が進行する「脳の老化」によるため、65歳以上の方に認める事が多いです。このため、初期症状があれば、早めに大きな認知症専門医療機関を受診して、認知症の有無の精査と同時に、分類をしっかりして、適応があれば認知症中核症状である健忘の進行を遅らせる内服をおこなう事で、良いQOL(生活の質)を出来るだけ長く維持することができる場合があります。
認知症の主な症状
中核症状
認知症において共通して起こる症状として、中核症状があります。記憶や認知機能を担う脳神経細胞が死滅することで中核症状をみとめます。御自分では分かりにくい異変に、周囲の人が先に気付くことがよくあります。御自身では、心や性格の問題として悩み、病気という自覚がないケースも多くありますが、以下の症状を認める場合は、早期の初期診断に専門医療機関受診して精査鑑別する事からはじめる事をおすすめします。
① 記憶障害
- 会った人の名前を忘れてしまう
- 食事をしたかどうかが思い出せない
- 今何をしようとしていたかを忘れてしまう
- いつも通っている道なのに、迷ってしまう
- 物を置いた場所を忘れる、置いたこと自体忘れてしまう
② 見当識障害
- 外出の準備ができない
- 約束した時間をいつも守れない
- 季節や気温に適した服装が難しい
- 道に迷って帰宅できない
- 自宅の中でキッチン、寝室、お風呂、トイレなどを間違えてしまう
- 家族、親戚、友人、親しい人が誰だか分からなくなってしまう
③ 判断・実行機能障害
- 料理ができなくなってしまう
- 不要な物を買ってしまう
- 計画的に買い物ができなくなる
④ 失語・失認・失行
- 言葉をうまく話せなくなった
- これまで行ってきた一連の動作が出来なくなった
- 慣れているはずの道具の使い方が分からなくなった
⑤ 病識欠如
- 御自身の病気や症状について冷静に判断できない
周辺症状
症状の現れ方に個人差が大きく出ます。周辺症状は、精神的症状と行動的症状に区別され、環境や心理状態、人間関係などによって変化します。
① 精神的な症状
- 気分が落ち込む
- あるはずのない物が見える
- 聞こえるはずがない音が聞こえる
- 考えることが困難になる
- 物事を理解できなくなる
- ありえない物事を強く信じ込んでしまう
- 単純な足し算・引き算が出来なくなる
- 判断力が低下する
- 物やお金を盗まれたと思い込む(妄想)
② 行動的な症状
- むせやすくなる、上手く飲み込めない
- 徘徊する
- 睡眠障害がある
- 簡単に怒り出す
- 暴力を振るう
- 食べられないものを口に入れる
- 便をいじる
- 歩けなくなる
- 尿や便が出にくい・失禁する
認知症の治療
認知症を発症する前の軽度認知障害の段階で発見できると、認知症に進行するのを抑えられる場合があります。このため、気になる初期のもの忘れ症状がある場合は、早めに認知症専門医療機関での精査をおこなうことをお勧めします。また、認知症の精査の中で脳腫瘍や軽度脳梗塞などを早期発見できるケースもあり、事前に深刻な疾患を予防し早期発見、早期治療することも可能になりえます。
認知症を根治に導く治療法は世界的にも未だ存在しません。薬物療法をおこないながら、認知機能低下の進行を遅らせ、周囲も本人も徐々に受け入れながら明るく生活していくことが治療の目的となります。
御家族へのケア
専門的医療機関においては御家族や介護をされる方に、効果的な対応の仕方などの他、認知能力を高めるサポートの方法なども教えてもらえる場合もあります。社会福祉士などの資格を有する精神保健福祉士もそろっている事が多く、事前にお電話でご確認の上、各専門医療機関へ御相談ください。
御来院頂いた後の注意点
当院では専門の各コメディカルの在籍もなく、大がかりな検査なども不可能であるため、初期の精査や鑑別診断は不可となっております。介護保険申請なども含め、専門医療機関での初期診断と必要に応じたリハビリ的行為を含めた専門治療をおすすめしています。専門機関で軽度認知障害とされた場合や、認知症周辺症状の一部へ、当院で併行して追加する漢方薬治療が有効である場合もございますので、ぜひ御相談下さい。服薬によって症状が改善しても、自己判断で服薬を中断すると、再度症状が酷くなることがあります。漢方薬といえど、服薬量や回数は、必ず医師の指示に従っておこなってください。